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パイプとバカでかい飴

メシアたちの人生観

あたしとはすむかいの猫。

近所のほとんど放し飼いの猫ちゃんが亡くなったらしい。白い体で透き通った薄い青の目の目つきが悪い猫。
初めてその猫にであったのは多分8歳の頃。あたしの家の周りをなわばりにしていて、夜窓から覗くとその猫と白い仔猫が二匹で歩いていた。あたしが12歳のころに、その猫は斜向かいの家のおじさんに飼われだした。仔猫はもうその頃にはいなかった。最初はおじさん以外の人には警戒していた。あたしは猫が大好きだからよく近づいてたけど逃げられていた。
そんな小6のある日、母と大喧嘩をしたんだけど、塾から帰ってきた夜に家の前で泣いていたらその猫が近づいてきて、体を擦り寄せながら顔を覗き込んで慰めてくれた。それからはチッチッと舌を鳴らせばにゃーと鳴きながらやってくるようになった。夏の暑い日にはうちわで扇いでやって、冬の寒い日には膝に乗せてマフラーで包んであっためてやった。雨や雪に打たれているときは、あたしの家の駐車場につれて雨や雪をしのがせた。若い女が好きで、近所にある銀行の、銀行員の女の人たちを寝っ転がりながら振り返ってじっと見ている姿はスケベオヤジみたいだった。
基本的にダラダラしていてトロイやつだと思っていたが、なわばりの中に入ってきた他の野良猫をすごい速さで追いかけて喧嘩に勝っているのをこっそり見てからはあなどれんやつだとわかった。
中学、高校と進んでからもその猫はいつもやってきて、あたしは撫でながらいろんな話を聞いてもらった。むかついたこととか、楽しかったこと、コロコロ変わる好きな人の話とか、何度も宣言するダイエットの話。その猫はじっと聞いてくれてた気がする。だらりと寝ていても、百均で買ってきた猫のおもちゃには反応して、すごい勢いで追いかけてくれた。
猫というものは、犬と違って飼い主の顔を忘れてしまうらしい。たとえば数ヶ月家を離れてから帰ってくると、猫はもうその飼い主のことをどこかで見た気がする程度になってしまうらしい。あたしは飼い主でもなんでもなかったけど、あたしが大学に入って数ヶ月家を離れてから帰ってきた時、近所にいたその猫にいつもやっていたようにチッチッと舌を鳴らすと、走ってこちらにやってきてゴロゴロ喉を鳴らしながら体を擦り寄せてきた。とっても不思議な猫である。
おじさんが扉を開けてくれるまで騒がずにじっと待つ猫だった。ある日、バイクの上に寝ているその猫を撫でているとき、おじさんが「他の人にはバイクの上に寝ているときは触らせてくれないんだよ、懐かれているね」と言われたときは嬉しかった。
メタボ気味だった体はだんだんと痩せて、前の春休みに抱き上げたときはその軽さに驚いた。あたしが舌を鳴らせばやってくるときいつも返事をするように鳴いていたが、その声も枯れたようになった。 
4月、その猫に5月にまた帰るから、絶対待っててねと言ったのにあたしは結局ゴールデンウィークに帰らなかった。帰っておけばよかったなぁ。大好きな大好きなあなた。ほんとたくさん遊んでくれてありがとう。さよなら。